2019年5月11日土曜日

黄金花(4) Written by 米澤先生



日本に吹く風はどんな色をしているのだろうか。
日本列島は古来山がちで平野がせまく、生きることの困難な地域であったという。長い停滞を抜け出して人口が増加に転じたのは、13世紀を過ぎてからだといわれている。
それでも飢饉は日常的であった。
自然災害に耐え、愛する人との別離をしのいで、日本列島に住む人々の心には人生の儚さを感じる無常感が深く刻み込まれていった。
桜は、そのような儚さの象徴だったのだろう。

チェンマイに吹く風はこれとは異なる。
肥沃なメコンデルタを吹き抜ける風は、生命をはぐくむ風である。
タイ国は建国以来、飢餓をしらない。
必死で働き続けてかろうじて生きていける日本と、わずかな努力で自然の恵みを享受できる国との差がそこにはある。
強烈な日差しの中を、今日も生命をはぐくむ風がチェンマイを吹き抜けていく。
その風に煽られるかのように、1つまた1つとゴールデンシャワーが散っていく。
そこには儚さや哀しみはない。
明るい陽の光の中を、黄金色の「踊り子たち」が、人の行き交う街路を埋めていく。
チェンマイの風は、
限りなく人にやさしく、
限りなく自分にやさしい。

ひそやかに
音もなく散る
黄金花










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