エッセイ
『チェンマイの風』
-時間よ、止まれ-Joon Caffe
週末友達に誘われて、チェンマイ郊外のカフェに行った。
市内から20分、小さなカフェの前に車は止まった。
すてきなカフェと聞いていたが、店構えはいたって地味だ。
しかし入口にある衣服売り場を通り抜けると、景色は一変する。
広々とした中庭が視界に入る。
さらに進むと、おもしろい意匠をこらした装飾が木々を飾っている。
広い庭にはクッションが並べられ、若いカップルが横になっている。
庭はビン川に面していて、静かな水面を見つめていると、気が安らぐ。
川面をたどると、彼方にドイステープの山並みが霞んで見える。
この景観がすっかり気に入ってしまった。
雑音が一切消えた中で、流れるか流れないかの川面を見つめる。
音もなく浮草が右目に入り、左目の隅に消え去る。
それで川が流れているのがわかる。
かすかな流れに乗って、時間の狭間から抜け出したように釣り船が音もなく現れる。
櫓を漕ぐこともなく、エンジンをふかすこともなく、釣り船は時間の止まった空間を動かぬ点となって佇む。
釣り船の向こう岸に見える小屋は、対岸のレストランの客が川で涼をとりながら食事をとる場所だという。
昔のチェンマイ貴族の豪華な食事風景には及ぶべくもないが、古いチェンマイをちょっと楽しめるようだ。
そう言えば、左に見える高床式の建物は、タイ王朝の王女さまが避暑に来る時泊まる建物だという。
王女さまもまた、この景観を見て心を癒やしているのか。
ふと、昔読んだ本の一節を思い出した。
『時よ、止まれ。
あなたはあまりにも美しい。』