画廊カフェ『Khun Hom』
友だちのメムさんが今日は画廊カフェに連れて行ってくれた。
コロナで部屋でくすぶっているのではないか、心配してのお誘いだった。
目当てのカフェは私のアパートから意外に近く、入口はカフェとは気づかないような地味な作りであった。
ふつうの人なら通り過ぎるような作りの目立たない入口は、中に入ると驚きに変わった。
小さな池があり、池には大小十数匹の鯉が流れに逆らって遊泳し、人影が近づくのを感じると群れがかたまって寄せてきた。
おいしいコーヒーとケーキを口にふくんで味わった。緑に囲まれた庭園をながめていると、まるで山の湖畔にいるような錯覚を覚えた。
しかし、本当の驚きは2階にあった。
2階にあがると、何十点の水彩画が展示されていて、どの絵画も目を奪うような感動を覚える。
中でも市井を描く作者の筆致はみごとである。
チェンマイは美しい町だ。しかしこの町の美しさの底に、哀しみの重低音が流れている。
この作者は、私がチェンマイに感じるのと同じ印象を描こうとしているのを感じた。
作者はタナコン氏という。タイで有名な画家の1人だという。
しばらくタナコン氏の絵に時間を忘れた。
タナコン氏の絵画は、見ているだけで心が和む。
記憶の彼方にある、忘れていた思い出にそっと触れるような優しさがある。
タナコン氏の絵にしばらく遊ぶ。
チェンマイは本当に美しい町だと思う。
しかしこの町の美の中に沈殿する哀しみに触れた時、人はチェンマイから離れられなくなるだろう。
その哀切さをタナコン氏は描こうとする。
午後の昼下り、タナコン氏の絵の世界にしばし時を忘れた。
チェンマイに住んでいると、時に不思議な出会いがある。
それもチェンマイの魅力かもしれない。