『第3回モンクトレールを登る』(3)
みんなが集まるまで時間があったので、近くを散策する。
石段を上がると黒い肌のぶつを安置した礼拝堂があり、そこでは10人くらいの若い僧侶を前にして指導僧が法話をしている。
横にある緑のトンネルをくぐり抜けると、大工さんが 木材を切っている。
その横では建築中の礼拝堂の屋根に上がって、若い僧たちが屋根の板を張っている。
タイ人の僧侶が祈りだけでなく、いろんな作業をすることに驚く。
建築作業現場の裏手には白い仏像を安置した礼拝堂があり、入口にはおなじみの岩場に立つ仏陀が僧侶に教えを垂れる絵が壁に立てかけてある。
新しく作られる礼拝堂の絵だろう。
ふと目を転じるとその隣に奇妙な花の絵が同じように立てかけてある。
これはなんだろう。
暗い絵である。
少しも美しくない。
けれど、一度見たら目が離せなくなる絵である。
心の深いところに食い込んでくる何かを、この絵は秘めている。
タイの仏教を仏典だけのきれいごとで見ると、失われてしまうものがある。
タイの仏教には、もっとドロドロした説明できないものがある。
この絵はそれを語ろうとしているように思う。
みんながようやく集まったので、山登りが再開されるる。
例によってタク先生たち元気組は足早に頂上を目指し、私たちは各駅停車で最後を守ることにする。
登り始めてすぐに、急峻な坂が始まる。
トップさんの激しい息づかいが大きくなる。
休憩を頻繁にとりながら、トップさんは一歩また一歩とゆっくり進む。
水をゴクゴク飲むので、たくさん飲むとたくさん汗をかきかえって疲れるので、唇を湿す程度に少しずつ飲むように勧める。
トップさんはうなずき、アドバイスに従う。
行く先々でガールフレンドが待ってくれているので、トップさんは彼女を目指して登って行って休みをとる。
だんだん休む時間は長くなるが、トップさんはあきらめない。
少し道が明るくなったところで、上から声がかかる。
「お疲れさま!」
とうとう着いたのだ。
トップさんはフラフラする足取りで岩に腰かける。
しばらく休んで、舗装され車の行き交う道を歩いて参道に出る。
道の両側には店が並んでいる。
ここで冷たい清涼飲料水で喉を潤す。
身体が冷えないうちに300 段ある石段を一気に登り、ドイステープの本堂の前の金色の仏像を、マントラを唱えるタイ人たちと一緒に3周し、改めて仏像に礼拝する。
それぞれの祈りを献花に託して、モンクトレールは終わりを告げる。
いいことがありますように!
空腹を抱えて早速山を下り、タイレストランで鶏肉ともち米と、タイ風サラダ「ソンタム」に舌鼓を打つ。
食べ終わる頃には、疲れはすっかり消えていた。
トップさんはすっかり元気になり、みんなの注文をタイ語でウェイトレスに伝えている。
軽い疲れが身体に残るのを感じながら、いい一日だったと思う。
エッセイ『第3回モンクトレール』終了。